フロントアジャスター(アパレル向け樹脂アジャスター開発実績)
- 業種
- アパレル
- 課題
- 小型化・外観対応
異分野アパレル業界への挑戦:R&P機構の超小型化と感性品質を叶えた樹脂アジャスター開発
※本製品は過去の開発実績であり、現在は販売を終了しております。ここで培われた技術や感性工学へのアプローチは、現在の株式会社ニックスのカスタム開発技術へと受け継がれています。
アトランタオリンピックが開催された1996年、株式会社ニックスのR&Dセンターは、大手アパレルメーカーであるトリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社(以下、トリンプ)より、これまでにない革新的な衣服用機能部品の開発要請を受けました。それは、衣服の「谷間調整機能」を担う、業界初となる伸縮調整式フロントアジャスターの創出でした。
衣服用部材に求められる「小型化」と、機構設計のトレードオフ
美しいボディラインを崩さない外観と、快適な着け心地(フィット感)を両立させるため、アジャスターには工業用部品とは全く異なる次元の厳しい制約条件が課せられました。解決すべき工学的な課題は以下の通りです。
- 超小型化の要求: 衣服内での違和感を排除するため、部品全体の極限までの小型化が必須。
- 強度の維持: 小型でありながら、日常の動作やねじれ、引張荷重に耐えうる高い機械的強度の確保。
- 高精度な左右連動: 左右のバランスを均等にアジャストするため、限られた微小スペース内で確実にかみ合うラック&ピニオン(R&P)機構の搭載。
当初の試作段階では操作性やねじれ強度に課題が生じたほか、ケースの接合工程においても難題に直面しました。ネジ止めによる組み立ては構造上不可能であり、超音波溶着を採用すると、全部品が同一の結晶性樹脂(ポリアセタール/POM)で構成されていたため、可動部まで一体化して固着してしまうリスクがありました。そこで株式会社ニックスは、組立作業性に優れ、確実な結合強度を得られる冷間カシメ工法を導入。最少部品点数(ミニマムパーツ)での設計を追求し、伸縮調整機能のベースを確立しました。
感性品質(微小なクリック音)への工学的アプローチ
機能面のクリアに続き、要求されたのは「アジャスト時に小気味よく、品のあるクリアな音が鳴る」という、ユーザーの満足感を高めるための感性品質(タクタイル感)の制御でした。
株式会社ニックスの開発陣は、過去に手がけた多様な工業用機構部品のノウハウを再検証し、樹脂独自の弾性だけに頼るのではなく、金属ばねと音の発生場所の微小な形状設計を精密に組み合わせる構造を考案しました。これにより、「カチ、カチ」という衣服の美観を損なわない上品な作動音と、3段階の確実なホールド感を両立させることに成功しました。
100色以上の展開とグローバル市場への普及
最初の打ち合わせから3カ月におよぶ微調整を経て、1996年秋に最終形状が確定。翌年に量産型へと移行しました。1998年春、このアジャスターを搭載したトリンプの「天使のブラ エンジェルクリック」が大々的に発売されると、その優れた機能性と小気味よい操作感が大きな話題を呼び、大ヒットを記録しました。
その後、生地のデザインやトレンドに合わせてバリエーションを増やし、最終的には100色以上のカラー展開を達成。その供給は日本国内にとどまらず、東南アジア、アメリカ、欧州、南米など世界各国へと広がり、グローバルな衣服の機能性向上に貢献しました。
このプロジェクトで培われた「超小型スペースにおける複合成形・機構設計技術」や「音や感触をコントロールする感性工学の知見」は、現在の株式会社ニックスが自動車や精密機器向けに提供している、高付加価値なカスタム・エンジニアリング・ソリューションに受け継がれています。